ほったらかしや
不登校児や子育て家庭の受け皿に
みんなの居場所「ほったらかしや」
誰でも利用可能な平日昼間の場が始動
八本松飯田に位置する「川上地域センター」は、1991年4月に川上公民館として開館し、地域の学びやコミュニティの場として存在してきました。現在も、絵画教室や運動教室、外国語の講座などが開かれ、さまざまな世代が利用しています。
こちらの地域センターで2023年7月から活動しているのが、「赤ちゃんから幼児ママパパと学校に行きづらい子 平日昼間のみんなの居場所」と題した「ほったらかしや」です。開催は毎月第1・3水曜の9:30~13:00。オープン時間であれば、いつでも誰でも出入り可能で、事前申し込みも必要ありません。平日昼間に居場所がないと感じる人がふらりと訪れて、思い思いに過ごすことができるのです。
取組みのきっかけは一人のママの悩み
この取組みがスタートしたのは、一人のママの悩みがきっかけでした。地域センター職員として勤務する白山昭美(しろやま てるみ)さんは、ある時、地元でキッチンカー運営をする山吉加乙俐(やまよし かおり)さんと出会い、その時に「実はうちの息子が不登校で、昼間に誰かと触れ合ったり、学べる場所が欲しいと考えていて」と、白山さんに相談をしたのだそうです。話を聞いた白山さんは、「だったら川上地域センターを使って、学校に行きづらい子や、小さいお子さんを抱えるママたちなど、みんなが集える場を作ったらどう?」と提案したのだといいます。
偶然にも、センターを全館利用できる日ができたので、「その日を貸し切りにしよう」という案で、とんとん拍子に計画が進行。白山さんから、八本松担当のコミュニティソーシャルワーカー(地域の人の生活上の相談を受け解決に向けた支援をする、社会福祉協議会の職員)である中東亮(なかひがし りょう)さんへ話を伝え、白山さん、山吉さんの思いをしっかりとヒアリングした上で、実施が決定しました。
何にも縛られない自由と居心地の良さ
「ほったらかしや」のコンセプトは、「いつでも誰でも参加自由」。ポスターには、「ここでは、やらなければいけないことも、周りとペースを合わせる必要もありません。何をするか決めるのはあなたです」という文言が並びます。
「“ほったらかしや”のネーミングは、そのままの意味です。私は何もしません。ただそばにいて見守っているだけです。どうぞ自由に来てもらって、自由に過ごしてください」と、白山さんは豪快に笑います。「何にも縛られないその自由さが、学校に行きづらい子たちや、小さなお子さんを抱えて時間がうまく捻出できないママたちにとって、居心地が良いんだと思います」と、山吉さんも笑顔を見せます。
“好き”や“やりたいこと”を存分に追求
オープンしているその間、参加者は各々が好きな時間に訪れ、したいように過ごします。ママたちはおしゃべりに興じたり、ホールで子どもを遊ばせたり。読書が好きなお子さんは、本コーナーで児童書やコミックを読んだりするのだそうです。
「ちなみにうちの子は、お菓子作りが大好き。そのことを白山さんに話したら、『だったら調理室使う?やりたいことをやったらいいよ』と勧めてくださって。家にはないような調理器具を使ってお菓子作りができるので、毎回息子が張り切っています」と山吉さん。息子さんが作った出来立てのお菓子は皆に振る舞われ、毎回とても評判なのだそうです。「皆さんから『おいしい』『どうやって作るの』と喜んでもらえるのが、すごくうれしいみたいです。『次は何を作ろう?』って楽しそうにしていますよ」。
趣旨に賛同する人たちで広がった支援の輪
また、この活動を知った地域の人たちが、「自分にも何かお手伝いできたら」と自然に集まってくるようになったのだといいます。例えばギターが趣味の男性は、弾き語りを披露して場を盛り上げます。さらにバルーンアートが得意な男性は、風船で動物やマスコットを作って、子どもたちにプレゼントしたり、会場を飾り付けます。そのうちに子どもたちが「やり方を教えて」と集まり、即席教室が開かれることもあるのだそう。「ギターのおじさん」「風船のおじさん」と親しまれ、親も子も一緒になって盛り上がります。
そのほかに、白山さんが「こんなのあったらいいな」というイベントを独自に考案して開催することも。クリスマスなどのイベントに合わせたリース作り、体操教室など、いずれも好評を博してきました。
自信や安心を得て、育まれる子ども同士の絆
「当初、ほったらかしやを立ち上げる時に、地域住民から『昼間から学校に行かない子が集まるなんて…』といった反対の声が出るんじゃないかと懸念したんです。けれど、まったくその逆。『いいことしよるね』という声や、『うちに余ってるおもちゃがあるから、良かったら使って』と寄付を申し出てくださる人もいて、地域の温かさをすごく感じました」と、白山さん。また、山吉さんは、「ここは異年齢の子が一度に集まるから、高校生の子が小学生の子と遊んであげたり、中学生が未就園児さんの面倒を見たりと、自然に子どもたちの輪が広がっていくんです。笑顔が増えたなと感じる子も多いですよ。ここに参加することで、子ども同士信頼関係を築いて安心した居場所になっていると感じます。」と話します。
山吉さんの息子さんは大好きなお菓子作りに没頭し、喜んでもらえるという経験を通じて自信がついたのだそう。「学校ではスマイルルームという特別学級に通っていますが、この前学校にも『お菓子作りをさせてほしい』と提案したようです。自分のやりたいことをはっきりと口に出す姿を見て、ほったらかしやで学び、得たものは大きいなと感じます」。
また、「居場所づくりって大事だな」と感じた子育てママが、白山さんや山吉さんの姿を見て奮起し自らも子育てサークルを立ち上げるなど、色々な効果が生まれているのだといいます。
多様な人が集い、心地良く暮らせる拠点に
今後は、「もっともっといろんな人にほったらかしやを利用してほしいです」と話す、白山さんと山吉さん。「このあたりは団地ができて、まだ地域になじめていない人も多いと思うんです。ちょっとした困りごとや悩みを相談したり、人とつながる場所として、ほったらかしやを活用してもらえたらと思います」と白山さん。「コミュニティソーシャルワーカーの中東さんや民生委員児童委員さんとも連携して、まずは顔見知りが増えるような地域づくりを目指したいです。ひいてはそれが、まちの安全にもつながると思います」。
さらに山吉さんは、「学校に行けない子や育児ママだけでなく、もっと色々な人に気軽に訪れてもらえたらうれしいです。地域の学びの場であると同時に、多様性が叶う居場所になったらいいですね」と、ニッコリ。
誰もが暮らしやすく、より心地良く生きられるように――そんな願いが込められた新たな場所は、これからもより多くの人に求められるに違いありません。